Honda CX500を"醜いアヒルの子"から珠玉のカフェレーサーに変える──67 Motorcyclesという流儀
英国の67 MotorcyclesがHonda CX系を軸に築いたカフェレーサー・カスタムの設計思想と、CX500が再評価される構造的理由を読み解く。
不人気車が世界中のビルダーを惹きつけるという逆説
Honda CX500──1978年の登場時から「醜い」と言われ続けた水冷V型2気筒。縦置きクランク、シャフトドライブ、プッシュロッドOHV。当時のホンダのラインナップにおいてさえ異端で、北米では"Plastic Maggot(プラスチックのウジ虫)"というあんまりな渾名まで付けられた。日本市場でも、同時代のCB750FやCBX1000の陰に隠れ、中古市場では長らく底値の常連だった。
だが2010年代に入ると、欧州を中心にCX系のカフェレーサー・カスタムが爆発的に増えた。タンクを削り、シートをシングルに換え、あの独特の水冷Vツインのシリンダーを剥き出しにしたスタイルが、SNSのタイムラインを席巻し始める。その流れのなかで、一貫してCX系を主軸に据え、完成度の高いコンプリートビルドを送り出してきたのが、英国に拠点を置く67 Motorcyclesである。
同ショップの仕事が注目に値するのは、単に不人気車を安く仕入れてスタイルだけ整えるというアプローチではない点だ。CX500/CX650という車両が構造的に持っているカスタム適性──フレーム剛性、エンジン搭載位置、整備性──を理解したうえで、再現性のある手法でビルドを重ねている。一品モノのショーバイクではなく、「乗れるカフェレーサー」を量産的に成立させた点に、このビルダーの本質がある。
Photo: Honda cx500 1981 blue rhs by Bernard S. Jansen, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 2.5)
CX500の構造的カスタム適性──なぜこのエンジンなのか
CX500が世界中のカスタムビルダーに選ばれる理由を理解するには、このバイクの設計思想を振り返る必要がある。
エンジンはOHV水冷80度V型2気筒、排気量496cc。公称出力は初期型で約50PS(メーカー公称値、市場により若干異なる)。縦置きクランクシャフトにシャフトドライブという駆動方式は、当時のホンダとしては極めて異例で、モト・グッツィの設計思想を連想させるとよく言われる。実際、ホンダがこの車両で狙ったのは欧州市場──とりわけ通勤・ツーリング用途での実用性だったとされる。
カスタムベースとしてこのエンジンが優れているのは、まずシリンダーが横に張り出す構造によって、フレームの内側にスペースが生まれる点だ。直列4気筒のように幅広いエンジンがフレーム内を占拠しないため、エアクリーナーボックスの撤去や電装の移設が比較的容易になる。また、水冷であるために外観上フィンが少なく、シリンダーヘッド周辺のラインが「機械的」に見える。これがカフェレーサーの無骨な美学と相性がよいとされる。
フレームは鋼管ダブルクレードル。ステアリングヘッドからスイングアームピボットまでの剛性バランスが、車重(乾燥重量で約200kg前後とされる)に対して十分に確保されており、リアセクションをカットしてループエンドやフラットシートを組んでも、構造的な破綻が起きにくい。これは同時代のCB系シングルクレードルフレームとの大きな違いである。
シャフトドライブもカスタムにおいては利点になる。チェーンラインの調整やスプロケットの選定が不要で、リアホイール周辺のデザイン自由度が上がる。クリーンなリアビューを作りやすいのだ。ただし、シャフトドライブ特有のトルクリアクション(加速時にリアが持ち上がる挙動)は好みが分かれるところで、67 Motorcyclesの完成車両でもこの点はそのまま残されている。構造を変えるのではなく、受け入れたうえでセットアップを詰めるという姿勢が見て取れる。
もうひとつ見逃せないのが、CX系の市場流通量の多さだ。1978年から1983年まで、CX500、CX500C(クルーザー)、CX500TC(ターボ)、CX650と派生モデルが生産され、欧米を中心に相当数が出回った。つまりドナー車両の入手が容易で、部品供給も比較的安定している。カスタムベースとしての現実的な条件が揃っている。
Photo: Honda cx500 1981 blue rhs by Bernard S. Jansen, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 2.5)
67 Motorcyclesのビルド哲学──再現性のあるカフェレーサー
67 Motorcyclesが他の単発カスタムビルダーと一線を画すのは、ビルドの「型」を持っている点だ。
同ショップのCXカフェレーサーには、共通する設計言語がある。リアフレームのループ処理、シングルシートカウルの造形、クリップオンハンドルとバーエンドミラーの組み合わせ、ヘッドライトの小径化、そしてリアショックのグレードアップ。これらの要素が一定の文法に則って組まれており、どの車両を見ても「67 Motorcyclesの仕事」と判別できる統一感がある。
この「型」の存在は重要だ。カスタムバイクの世界では、一品モノの芸術性を追求する方向と、再現可能な手法を体系化して顧客に届ける方向の二つがある。67 Motorcyclesは明確に後者だ。同ショップはCX系のカスタムキット──シートカウル、サブフレーム、電装ハーネスなど──をパッケージとして提供しており、一定の技術を持つ個人が自分のガレージで組み上げられる道筋を示している。
これはビジネスモデルとしても合理的である。フルカスタムのコンプリート車両は、工賃を含めれば当然高額になる。だがキットという形態なら、ドナー車両を安価に入手できるCX系の特性を活かし、比較的手の届く価格帯でカフェレーサーを手にすることが可能になる。67 Motorcyclesの活動が世界中のCXカスタムの増加に寄与した背景には、この「キット文化」の存在がある。
塗装やタンクの仕上げにも一貫した美意識がある。派手なグラフィックスを多用せず、単色もしくは二色の塗り分けにピンストライプを添えるパターンが多い。英国のカフェレーサー文化──1960年代のトン・アップ・ボーイズに遡る、速さと簡素さの美学──を、日本製の水冷Vツインに移植するという、一見矛盾した試みが、彼らのビルドでは自然に成立している。
📺 関連映像: 67 Motorcycles Honda CX500 cafe racer build — YouTube で検索
水冷OHVという「古さ」が2020年代に映える理由
CX500のOHVヘッドは、1970年代末の時点ですでに時代遅れの技術だった。同時期のホンダはDOHC4バルブを次々に展開しており、CXのプッシュロッドは明らかにコスト重視の選択だった。だが、この「古さ」が現代のカスタムシーンでは逆に価値を持つ。
OHVの構造的な特徴として、カムシャフトがクランクケース近くに位置し、プッシュロッドを介してロッカーアームを動かすという機構がある。DOHCに比べてヘッド周辺の部品点数が少なく、ヘッドの全高が低い。これはエンジン上部のシルエットをコンパクトにし、タンクからシートにかけての水平ラインを作りやすいという外観上の利点を生む。カフェレーサーにおいてタンク〜シート間のラインは最も重要なデザイン要素のひとつであり、CXのエンジン形状はここで有利に働く。
バルブトレインの簡素さは整備性にも直結する。タペット調整はスクリュー式で、特殊工具なしに行える。DOHCエンジンのようにカムチェーンテンショナーの摩耗やカムシャフトのかじりを心配する必要が少なく、長期間放置された個体でも、腰上のリフレッシュが比較的容易だとされる。これはガレージビルダーにとって大きな魅力だ。
一方で、OHVゆえの限界もある。高回転域での出力特性はDOHCに劣り、レブリミットも低い。CX500の最大出力回転数は9,000rpm付近とされるが、実用的なパワーバンドはそれよりかなり下にある。つまり、このエンジンはぶん回して楽しむタイプではなく、中回転域のトルクで走るバイクだ。カフェレーサーのスタイルから想起される「速さ」のイメージとは、実はやや乖離がある。だが、公道で実際に心地よい速度域──法定速度プラスアルファの領域──では、このトルク特性がむしろ扱いやすいと評価される場面が多い。
水冷であることもポイントだ。空冷エンジンのような経年劣化によるオーバーヒート問題が起きにくく、夏場の渋滞でも安定した温度管理ができる。ラジエーターの存在は外観上の好みが分かれるところだが、67 Motorcyclesのビルドではラジエーターを小型の社外品に換装したり、搭載位置を工夫したりすることで、見た目の影響を最小限に抑えている例が見られる。
Photo by Gijs Coolen on Unsplash
相場と入手性──2026年現在のCX500事情
CX500のドナー車両は、欧州市場では依然として比較的安価に流通している。英国のオンライン中古車市場では、走行可能な状態の個体が数百ポンド台から見つかることもあるとされる。ただし、カスタムベースとしての人気が高まった2010年代半ば以降、程度の良い個体の価格は上昇傾向にある。特にフレームに錆が少なく、エンジンが実働する個体は、以前のような「タダ同然」の価格では手に入りにくくなっている。
日本国内での流通は欧米に比べると少ない。CX500は国内では「GL500」として販売されており(厳密には仕様が異なる部分もある)、こちらの名前で検索したほうが個体は見つかりやすい。ただし、国内での流通量はCB系やZ系と比較にならないほど少なく、専門に扱うショップも限られる。海外からの個人輸入という選択肢もあるが、通関費用、排ガス規制への適合確認、そして予備検査の手間を考えると、初心者には敷居が高い。
67 Motorcyclesのコンプリートビルドは、当然ながらドナー車両の数倍から十倍以上の価格になる。これはフルカスタムの世界では標準的な価格構造だ。同ショップのキット類を利用して自分で組む場合でも、ドナー車両代、キット代、塗装代、消耗部品の交換費用を積み上げると、相応の投資にはなる。だが、同等の完成度を持つ欧州メーカーのネオクラシック新車──たとえばTriumph Thruxton RSやBMW R nineT Racer──と比較すれば、CXカスタムのほうが安価に収まるケースが多い。
重要なのは、CX系カスタムの価値が「安い旧車で遊ぶ」という文脈だけに留まらない点だ。67 Motorcyclesの完成車両は、カスタムショーでの入賞歴もあり、コレクション性のある一台として中古市場で値が付く。つまり、適切にビルドされたCXカフェレーサーは、消費財ではなく資産になりうる。
Photo: Honda cx500 1981 blue rhs by Bernard S. Jansen, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 2.5)
まとめ──不人気車を文化に変えた仕事
67 Motorcyclesの功績は、Honda CX500という「誰も見向きしなかった実用車」を、世界中のガレージビルダーが参照するカフェレーサーの定番ベースに押し上げたことにある。それは天才的なひらめきというよりも、車両の構造を正確に読み解き、再現可能な手法に落とし込み、キットとして流通させるという、地道で合理的な仕事の積み重ねだった。
CX500のOHV水冷Vツインは、速さを競う機械ではない。だが、公道を気持ちよく流す領域では十分以上の性能を持ち、整備性に優れ、ドナー車両の入手も現実的だ。そして何より、あの横に張り出したシリンダーのシルエットが、カフェレーサーのスタイリングと驚くほど合う。不格好だと笑われた造形が、文脈を変えれば魅力になる。67 Motorcyclesはその文脈の転換を、身をもって証明したビルダーである。
📺 関連映像: Honda CX500 cafe racer exhaust sound riding — YouTube で検索
CX系カスタムの世界をさらに深く知りたい向きには、まずAlastair Walker著『The Cafe Racer Phenomenon』を勧めたい。カフェレーサー文化の歴史的背景から現代のカスタムシーンまでを写真と文章で辿る一冊だ。Mike Seate著『Cafe Racers: Speed, Style, and Ton-Up Culture』も、英米のカフェレーサー文化を理解するうえで外せない。国内では『カスタムバーニング』2018年12月号(造形社)が、欧州カスタムビルダーの特集を組んでおり、67 Motorcyclesの仕事を含む欧州カフェレーサーの潮流を俯瞰する参考になる。
本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。
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The Cafe Racer Phenomenon
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Cafe Racers: Speed
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