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2026-06-28車種 Wiki

BSA A65 Lightning — 振動を「個性」と呼ぶしかなかった英国並列二気筒の本懐

BSA A65 Lightningの設計思想・エンジン構造・振動特性・相場を、英国二輪史の文脈から読み解く。

BSA A65 Lightning — 振動を「個性」と呼ぶしかなかった英国並列二気筒の本懐
Photo by Daniel Schuh · Source

650ccという排気量が意味した時代

1960年代前半、英国バーミンガムのBSA(バーミンガム・スモール・アームズ)が市場に送り出したA65系は、同社にとって量産ロードモデルの屋台骨だった。A65 Lightningはそのスポーツ寄りのグレードとして1964年に正式にカタログへ加わり、以降1972年のBSA実質的撤退まで、細部を変えながら作り続けられた。排気量654cc、OHV並列二気筒。同時期のトライアンフ・ボンネビルT120が同じ649ccの並列二気筒を積んでいたことからも分かるように、650ccクラスは当時の英国二輪メーカーにとって「主力戦艦」の排気量だった。

この時代の英国製650は北米市場を強く意識している。アメリカ西海岸のディーラー網からのフィードバックがカタログモデルの仕様を左右する構造があり、Lightningが当初ツインキャブ仕様で登場したのも、米国ユーザーが求めるスポーツ性能への回答だったとされる。公称出力は年式と仕向地によって異なるが、初期型で概ね52〜54bhp程度、後期型では若干のデチューンが入って50bhp前後と言われる。同年代の日本車——たとえばホンダCB450が43bhpだったことを考えると、パワーだけなら英国勢は依然として優位を保っていた。だが、その優位が長く続かないことは、カワサキW1やホンダCB750 Fourの足音が示していた。

BSA A65 Lightning vintage motorcycle Photo: Autoroute A65 direction Langon (2) by Père Igor, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 3.0)

360度クランクとユニット構造が生んだ「あの振動」

A65系を語るうえで避けて通れないのが振動の問題であり、これはこのエンジンの設計構造そのものに起因する。A65のクランクシャフトは360度位相——つまり二本のピストンが同時に上下する。この形式は点火間隔が等間隔にならず、構造的に一次振動の完全なバランスが取れない。同時代のトライアンフT120も同じ360度クランクだったが、A65はクランクケースとミッションケースを一体化した「ユニット・コンストラクション」を1962年型から採用しており、これが振動の伝達経路に影響を与えたと一般に指摘される。

ユニット構造は部品点数の削減と組立工程の合理化が狙いであり、設計判断としては近代化の一歩だった。しかし、エンジンとミッションが同一のケースを共有する以上、エンジンの振動がダイレクトにギヤトレインへ伝わる。プリ・ユニットの旧A10系ではエンジンとギヤボックスが別体であり、振動の遮断という一点に限れば旧型のほうが有利だったという見方もある。

もう一つ、A65系のバランスファクターの設定が議論の的になる。一般にバランスファクターを高く設定すれば高回転域の振動は減るが低回転域で揺れが出やすく、低く設定すれば逆になる。A65は市販車としてある妥協点に設定されているわけだが、回転数を上げていくとハンドルバーとフットレストに伝わる振動が顕著に増し、巡航回転域——概ね3500〜4500rpm付近——で手指のしびれを訴えるオーナーが少なくないとされる。これは「英国車の味」と呼ばれることもあるが、物理現象としては360度クランクの宿命であり、味も何も構造上そうなるとしか言いようがない。

1970年代に入ってノートンが「アイソラスティック・マウント」でエンジンをラバーマウント化し、振動の車体伝達を劇的に低減したのとは対照的に、BSAは最後までリジッドマウントを通した。A65系最終期のOil-in-Frame(オイルインフレーム)モデルではフレーム設計の変更があったものの、振動対策としてのラバーマウントは採用されていない。

BSA A65 engine parallel twin close up motorcycle Photo: Autoroute A65 direction Langon (2) by Père Igor, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 3.0)

ツインキャブ仕様の功罪——Lightningのアイデンティティ

LightningをA65系の他グレード——Thunderbolt、Star、Firebird——と分けるのは、本質的にはキャブレターの数である。Lightningは二基のアマル・コンセントリック(後期はアマル932系)を装備するツインキャブ仕様で、Thunderboltは単キャブだった。この差は馬力にして数bhp程度とされるが、市場でのポジショニングとしてはLightningが「スポーツ」、Thunderboltが「ツーリング」という明確な棲み分けがあった。

ツインキャブの同調という整備上の課題は、A65に限った話ではない。ただしA65の場合、エンジンの振動がキャブレターのフロートバルブに影響を及ぼしやすく、同調が崩れやすいという声が昔から多い。アマル・コンセントリックはスライドバルブ式であり、CVキャブのような負圧による自動補正機構を持たない。つまり、セッティングはライダー(あるいはメカニック)の技量に委ねられる部分が大きく、調律が決まった時の吸気音と加速感は格別だが、ずれた時のギクシャクも大きいとされる。

後期モデル——1971年型以降のOil-in-Frameでは、前述のとおりフレームが刷新された。オイルタンクをフレームのバックボーンに内蔵する設計だが、この変更に対する評価は当時から分かれており、操安性の悪化を指摘する声がある。実際に英国のオーナーズクラブでは、1968〜69年型あたりのいわゆる「プリ・OIF」をベストイヤーとする意見がしばしば見受けられる。もっとも、こうした評価は個体差や整備状態にも左右されるため、一概に断定はできない。

📺 関連映像: BSA A65 Lightning エンジン音 走行 — YouTube で検索

生産終焉とその後——なぜ「消えた」のか

BSAの経営悪化は1970年代初頭に決定的となった。1971年の会計年度で大幅赤字を計上し、1972年にはグループ傘下のトライアンフと統合されるかたちで実質的にBSAブランドのバイク生産は終了した。A65系もこの流れのなかで消えていく。日本の四気筒勢——CB750 Four、Z1——が性能と品質管理の両面で英国勢を圧倒し始めた時期であり、BSAに限らず英国二輪産業全体が市場から退場を迫られた。

ただし、ここで「日本車に負けた」という単純な物語に回収するのは正確ではない。BSAの凋落にはグループ内の投資判断の誤り、労使関係の硬直、モデルチェンジの遅延といった複合的な要因がある。バンタムやスターファイアといった小排気量モデルへの依存から脱却しきれなかったポートフォリオの問題も大きい。A65系自体は決して売れないモデルではなかったが、一台で会社を救う馬力はなかった。

BSA motorcycle factory Birmingham vintage Photo by Dominic Kurniawan Suryaputra on Unsplash

現在の相場と入手性——2020年代の英国旧車市場

2020年代中盤の現在、BSA A65 Lightningの相場は状態と年式で大きく開く。英国のオークションハウスやクラシックバイク専門ディーラーの公開落札データを見ると、レストア済みの良好な個体で概ね7,000〜15,000英ポンド(日本円で約130万〜280万円、為替変動あり)程度が一般的な帯域とされる。未レストアのプロジェクト車両であれば3,000〜5,000ポンドあたりから出ることもあるが、欠品パーツの調達コストを考えると割安とは限らない。

日本国内での流通は多くない。英国旧車を扱う専門店や個人輸入で入手するケースが主流であり、車検対応や部品供給の点でハードルは高い。ただし、A65系のパーツ供給に関しては英国本国のSRM Engineering、Draganfly Motorcyclesといった専門サプライヤーが多くの消耗品・機能部品をリプロダクションしており、部品面で「手も足も出ない」という状況ではないとされる。電装系のルーカス部品については互換品の選択肢も広がっている。

同年代の英国車——トライアンフ・ボンネビル、ノートン・コマンドの相場と比較すると、A65 Lightningはやや割安な傾向にある。ブランド認知度の差が価格に反映されている部分があり、裏を返せば「英国並列二気筒の体験を、比較的手の届く価格で得られるモデル」とも言える。

classic British motorcycle BSA restoration workshop Photo by Roger Starnes Sr on Unsplash

結局この一台は何だったのか

BSA A65 Lightningは、英国二輪産業の「最後の量産世代」を象徴する一台である。360度クランクの振動、ユニット構造の合理性と限界、ツインキャブの手のかかる吸気系——すべてが1960年代の英国エンジニアリングの判断と制約のなかで生まれたものであり、その意味でこのバイクは設計思想の化石標本のような存在だ。化石と言っても死んでいるわけではなく、パーツ供給は生きており、英国やオーストラリアではクラブラン(クラブ単位のツーリングイベント)で普通に走っている。

愛される理由を問われれば、それは振動を含めた「全身で走っている感覚」にあるのだろう——と言いたいところだが、筆者が乗ったわけではないので正確には分からない。ただ、長年にわたって英国のオーナーズクラブが活動を続け、パーツメーカーが再生産を止めない事実そのものが、このバイクへの需要と愛着が途絶えていないことの証左である。

英国旧車の世界をさらに深く知りたい向きには、Mike Estall著『BSA A65 Star, Firebird & Thunderbolt』(Veloce Publishing)がA65系各グレードの年式ごとの変遷を詳細に追っており、購入ガイドとしても実用的だ。Roy Bacon著『The BSA Buyer's Guide』は車種横断的にBSA全般をカバーする一冊で、A65の位置づけを俯瞰するのに向く。英国車全体の技術史・産業史の文脈を掴むなら、Mick Walker著『Classic British Motorcycles』(Crowood Press)が手堅い。いずれも日本のAmazonや英国の古書店経由で入手可能である。

📺 関連映像: BSA A65 Lightning restoration build — YouTube で検索


本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。

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