CB750 Four K0〜K6——「世界初の量産直4」が年式ごとに変えたもの、変えなかったもの
Honda CB750 FourのK0からK6まで、年式ごとの仕様変更・設計思想・相場を構造から読み解く完全ガイド。

1969年、直列4気筒が「普通」になった瞬間
1969年の東京モーターショーでもなく、同年のラスベガスのディーラーミーティングでもない。CB750 Fourの衝撃が本当に伝わったのは、量産車として市井のディーラーに並んだときだった。それまで「4気筒」とは、MVアグスタやジレラの、レースのためだけに存在する特権的なエンジン形式だった。ホンダはそれを、街のバイク屋で買えるものに変えた。
排気量736cc、SOHC 8バルブの横置き直列4気筒。メーカー公称67馬力(初期型)。油圧式ディスクブレーキを量産二輪車で初めてフロントに採用し、電装は12V。乾燥重量は公称218kg前後とされる。1969年から1978年までの約10年間に、K0からK6(厳密にはK7/K8、さらにF系への派生もある)まで、年式ごとに細かく仕様が変わっていった。しかしその変化は、設計思想の根幹を揺るがすものではなく、むしろ「量産車として成熟していく過程」そのものだった。
この記事では、CB750 Four のK0からK6までを年式順に追い、何が変わり、何が変わらなかったかを整理する。相場や入手性にも触れるが、主眼は構造と設計判断の変遷に置く。
Photo: 2023 Honda CB750 Hornet by Chanokchon, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)
K0(1969〜1970年)——砂型と「初期ロット」の神話
CB750 Fourを語るとき、避けて通れないのが「砂型」と「ダイカスト」の問題である。K0の極初期ロット——生産番号でいえばCB750-100万番台の若い個体——はクランクケースに砂型鋳造のパーツが使われていたとされる。砂型は鋳肌が粗く、個体ごとの微妙な表情がある。対してダイカスト(金型鋳造)は量産効率に優れ、表面が滑らかだ。これがコレクター市場で「砂型K0」を神格化する最大の根拠になっている。
ただし注意が要る。砂型パーツが使われた期間は生産初期のごく短い間で、正確な切り替え時期や番号帯についてはホンダの公式な線引きが存在しない。研究者やレストアラーの間でも諸説あり、「何番まで砂型か」は確定的に語れない領域だ。フレーム番号とエンジン番号の照合、クランクケースの鋳肌の確認、キャブレターの仕様など、複数の要素を突き合わせて初めて「初期ロットらしい」と判断される。
K0のその他の識別点として一般に挙げられるのは以下のとおり。フロントブレーキキャリパーの形状(初期型はシングルピストンで、マスターシリンダーのリザーバーキャップが金属製)、ポイントカバーのホンダウイングマークの有無、マフラーの4本出しの形状とバッフル構造、メーターパネルの書体。シートのステッチパターンやテールランプのレンズ形状にも差異がある。
エンジン本体の基本構造は、ボア×ストローク61.0mm×63.0mmの736cc。カムチェーンはセンター配置で、シリンダーヘッドには吸気・排気各1本ずつの計8バルブ。クランクシャフトは一体鍛造の5ベアリング支持。プライマリードライブはギア式で、クラッチはウェット多板。この基本レイアウトは最終型まで変わらない。
K0の北米市場での当時の販売価格は、公開資料によれば約1,495ドル。同時期のトライアンフ・トライデント750が1,600ドル台だったとされるから、後発にして価格で下回り、性能とブレーキで上回ったことになる。これがいかに衝撃的だったかは、その後の英国バイク産業の衰退を見れば明らかだ。
Photo: 2023 Honda CB750 Hornet by Chanokchon, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)
K1〜K2(1970〜1972年)——量産車としての洗練
K1(1970年モデル)からK2(1972年モデル)にかけての変更は、「問題の修正」と「量産性の向上」が主軸だった。
K1で目立つ変更点は、まずヘッドライトケース内のハーネスの取り回し変更、マスターシリンダーのリザーバーがプラスチックキャップへ移行したこと。タンクのカラーリングとストライプのデザインが変わり、シート形状にも微修正が入った。エンジンの基本スペックに変更はないが、キャブレターのセッティングが北米向けの排ガス規制の初期対応として微調整されている。フロントフォークのインナーチューブ径は35mmのまま据え置き。
K2になると変更の幅がやや広がる。最も目につくのはサイドカバーのデザイン変更で、エンブレムの形状が変わった。リアサスペンションのスプリングレートの見直し、マフラーの内部構造の小変更なども報告されている。ここで重要なのは、K2までのモデルがいわゆる「初期型の味」を色濃く残す最後のグループだという認識が、愛好家の間で共有されていることだ。
技術的に掘り下げるべきは、この時期のキャブレター——ケーヒンの初期型CVキャブ——の構造だ。CB750 Fourの初期型が採用したのは、いわゆるコンスタント・ベロシティ(定速度)型キャブレターで、スロットルバルブがバタフライ式、吸気の負圧でピストンバルブ(スライドバルブ)が上下する構造である。これにより、スロットル操作に対するエンジンの応答がマイルドになり、大排気量車を初めて扱うライダーにも比較的扱いやすい特性が与えられた。一般に「CVキャブは低開度のツキが穏やかで、中〜高開度域で素直にパワーが乗る」と言われるのは、この構造に由来する。後年のカスタムシーンでFCRやTMRといった強制開閉式キャブレターに換装する例が多いのは、この穏やかさの裏返しとして、スロットルレスポンスの「ダイレクト感」を求める志向による。
Photo: 2023 Honda CB750 Hornet by Chanokchon, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)
K3〜K4(1973〜1974年)——排ガスと安全規制の波
1973年モデルのK3は、CB750 Fourの性格が変わり始める転換点とされる。背景には北米市場での排ガス規制と安全基準の強化がある。
K3ではフロントディスクブレーキのキャリパーが改良され、制動力の向上が図られた。キャブレターのジェッティングは排ガス対応でリーン方向に振られ、体感的な中低速トルクが初期型と比べてやや薄くなったと一般に言われる。マフラーの内部構造も規制対応で変更が入り、排気抵抗が増えた分、高回転域の伸びにも微妙な影響があったとされる。ただし、メーカー公称の最高出力値には大きな変更はなく、あくまでフィーリング上の違いという領域だ。
外装面では、K3からフューエルタンクの容量が変更されたとする資料もあるが、市場ごとの仕様差(北米・欧州・国内)があるため、一概に「K3から何リットル」とは断定しにくい。サイドカバーのデザイン、メーターの文字盤、テールランプのサイズなどは年式ごとに異なり、ここがレストアラーにとって部品選定の悩みどころとなる。
K4(1974年モデル)では、さらに安全規制への対応が進む。ハンドルバーの高さやミラーの位置に関する法規対応、反射板の追加などが行われた。電装系では、ウインカーのリレー変更やハーネスの仕様変更が入っている。
K3〜K4は、コレクター市場における評価が初期型ほど高くない傾向がある。しかし実用面では、初期型の「アタリ」を引いた個体と比べて部品供給の面で有利な場合もあり、「乗るためのCB750 Four」としてはむしろ現実的な選択肢だと言える。
📺 関連映像: Honda CB750 Four K4 走行 エンジン音 — YouTube で検索
Photo: 2023 Honda CB750 Hornet by Chanokchon, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)
K5〜K6(1975〜1976年)——円熟と、後継への助走
K5(1975年)とK6(1976年)は、CB750 Fourの最終進化形にあたる。この時期になると、ホンダ社内ではすでに後継モデル(DOHC 4バルブのCB750F/CB750K)の開発が進んでおり、K型は「成熟した完成品」として市場に送り出されていた。
K5の目立つ変更は、フロントディスクブレーキの大径化とキャリパーの改良、リアブレーキのドラム径見直し。足回りの改善はこの時期になってようやく本格化した感がある。フロントフォークのセッティングも見直されており、初期型と比べて安定性が増した。
K6ではさらにカラーリングの変更、細部の質感向上が図られている。この世代になると、各部の建て付けや仕上げが初期型より良くなっているという評価が一般的だ。量産ラインが10年近い経験を積み重ねた結果であり、当然と言えば当然である。
エンジン本体に目を向けると、K0からK6まで基本的なボア×ストローク、バルブ配置、カムチェーンのレイアウトは変わっていない。変わったのは補機類のセッティングと外装、そして法規対応のための電装・灯火類だ。この「変えなかったもの」こそがCB750 Fourの設計思想の核であり、736ccの直列4気筒が持つ基本素性の良さを物語っている。
なお、K6の後にK7(1977年)、K8(1978年)が存在するが、これらは北米市場向けの限定的な展開で、K6までを「CB750 Fourの本流」とする見方が主流だ。1979年にはDOHC 4バルブのCB750Kが登場し、SOHC 2バルブの時代は幕を閉じる。
Photo: 2023 Honda CB750 Hornet by Chanokchon, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)
相場と入手性——2020年代半ばの現実
2026年現在、CB750 Fourの中古相場は年式・状態・市場によって大きく開く。
最も高値を呼ぶのは、言うまでもなくK0の初期ロット、とくに砂型クランクケースの個体だ。フルレストア済みで書類・番号の整合性が確認された個体は、海外オークション(Bring a TrailerやMecumなど)で数万ドル(数百万円〜一千万円超)の落札事例が報告されている。国内でも、状態の良いK0は専門店で300万円を超える値付けが珍しくない。
一方、K3以降の後期型は比較的手が届きやすく、走行可能な状態で100万円台前半から見つかることもある。ただし「安いから」と飛びつくと、欠品パーツの調達で結局高くつくのが旧車の常だ。とくにCB750 Fourの場合、外装パーツ(タンク、サイドカバー、テールカウル)の年式適合が厳密で、「K2のタンクにK4のサイドカバー」といったツギハギ個体も流通している。購入時にはフレーム番号・エンジン番号の照合と、外装パーツの年式整合を確認するのが基本とされる。
純正部品の供給は、ホンダの旧車部品再生産プログラムや、海外のリプロダクションパーツメーカー(David Silver SparesやCMSNLなど)によって一定の水準が保たれている。ガスケット類、電装部品、ゴム類などの消耗品は比較的入手しやすい。しかし、クランクケースやシリンダーヘッドといった主要鋳造部品の純正品は基本的に出ない。
カスタムの入口としては、K3〜K6をベースにしたカフェレーサーやブラットスタイルが海外で根強い人気を持つ。フレームのダウンチューブが太く、直4エンジンの存在感が映えるプロポーションは、カスタムベースとしての汎用性が高い。ただし、初期型をカスタムベースにすることには賛否が分かれる。歴史的価値のある個体を不可逆に加工することへの抵抗感は、年を追うごとに強まっている。
📺 関連映像: CB750 Four K0 レストア 砂型 — YouTube で検索
まとめ——変わらなかったことの重み
CB750 Fourが「世界初の量産直列4気筒」として歴史に刻まれているのは事実だが、その本当の偉大さは「初めて出した」ことだけにあるのではない。K0からK6まで約10年間、基本設計を維持しながら量産車として成熟させ続けたこと。その過程で排ガス規制にも安全基準にも対応し、信頼性を積み上げたこと。これがなければ、CB750 Fourは「先駆者だったが短命だった」という評価で終わっていたかもしれない。
年式ごとの差異は、コレクターにとっては価値の根拠であり、実用派にとっては部品選定の判断材料だ。どの年式が「最良」かは、何を求めるかによって答えが変わる。歴史的価値ならK0、実用と入手性のバランスならK4〜K6、カスタムベースならK3以降。いずれにせよ、736ccのSOHC直4が刻んだ10年の軌跡は、二輪車の設計史における最も重要な一章であることに変わりはない。
さらに深く知りたい方には、佐藤康郎著『CB750 Four FILE』(グランプリ出版)が年式ごとの仕様差を写真付きで詳細に記録しており、資料性が高い。三栄書房の『ホンダCB750Fourのすべて』も、開発背景から各年式の変遷までを網羅した好著だ。雑誌では『ミスターバイクBG』2019年3月号がCB750 Four特集を組んでおり、バックナンバーが入手できれば一読の価値がある。
Photo: 2023 Honda CB750 Hornet by Chanokchon, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)
本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。
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佐藤康郎 / グランプリ出版
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ミスターバイクBG 2019年3月号
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