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2026-08-20カスタム

Death Machines of London——鉄を彫刻に変える、ロンドン発カスタムの異端児

ロンドンの異端ビルダーDeath Machines of Londonの設計思想、代表作、金属加工の技術を公開情報から深掘りする。

Death Machines of London——鉄を彫刻に変える、ロンドン発カスタムの異端児
Photo by Angry._.Kat · Source

「バイクの形をした彫刻」という宣言

カスタムバイクの世界には、速さを追う者、美しさを磨く者、そして「意味」を刻む者がいる。Death Machines of London(以下DMOL)は、その名の通りロンドンを拠点に活動するカスタムビルダーだが、彼らの作品を前にすると「カスタムバイク」という呼称がどうにも手狭に感じられる。フレームから外装、タンク、ハンドル、果てはボルトの頭に至るまで、手作業で成形された金属の塊。量産車をベースにしながら、完成した車両はもはや元車種の面影をほとんど残さない。工業製品としてのオートバイと、工芸品としての金属彫刻の境界線上に立つ存在だ。

DMOLを主宰するのはJames Sherryという人物である。彼のバックグラウンドはモーターサイクル業界ではなく、デザインとブランディングの領域にあったとされる。バイクを「乗り物」としてではなく「造形物」として捉える視点は、そこに由来するのだろう。公式に発表されたビルドの数は決して多くない。年に一台か二台、時にはそれ以下。しかし一台ごとの密度が尋常ではなく、完成品が公開されるたびにBike EXIFやPipeburn、Iron & Airといった海外のカスタムメディアが大きく取り上げてきた。

彼らの仕事を理解するには、まず代表作を見るのが早い。そしてその代表作こそが、挑発的な名を冠した「The Airforce Mach 1(エアフォース・マッハ・ワン)」や「Up Yours」といった車両群である。

custom motorcycle metal sculpture London workshop Photo by Nguyen Minh Kien on Unsplash

Airforce Mach 1——ホンダCB750をここまで変えるか

DMOLの名を広く知らしめた初期の代表作が、ホンダCB750をベースとした「The Airforce Mach 1」だ。ベース車両は1970年代のCB750 SOHC系とされるが、完成車を見て「CB750だ」と即座に言い当てられる人間はまずいないだろう。

まず目を引くのは、航空機の機体を思わせるアルミ外装である。タンクは細身に絞り込まれ、シートカウルと一体化するラインで後方へ流れる。この外装はすべて手叩きによるアルミ成形──いわゆるイングリッシュ・ホイールとプラニシングハンマーを駆使した板金技法で作られている。CADで描いた曲面を3Dプリンターで出力するのではなく、金属板を木型や砂袋の上で繰り返し叩き、人間の手と目で曲率を追い込んでいく。この技法自体は戦前の航空機製造や1950年代のコーチビルダーに遡るもので、英国にはその系譜が細々と生き残っている。DMOLはその伝統的技術を、現代のカスタムバイクに転用しているわけだ。

エンジンは外観上も大幅に手が入っている。ヘッドカバーやポイントカバーといった補機類のカバーは、純正品ではなくワンオフで削り出し、あるいは鋳造した部品に置き換えられている。CB750の空冷直列4気筒エンジンは、SOHCモデルの場合、ボア×ストロークが61.0mm×63.0mmの736ccで、メーカー公称値で67馬力とされる。DMOLのビルドにおいてエンジン内部にどこまで手が入っているかは公式に詳述されていないが、外観上の造形変更だけでも膨大な工数が費やされていることは、公開された製作過程の画像から明らかだ。

足回りについては、フロントフォークがインナーチューブ露出のコンベンショナルタイプから、倒立フォークへ換装されている個体が確認できる。リアサスペンションはモノショック化され、スイングアームもワンオフ。ホイールはスポークではなくアルミ鍛造のソリッドタイプが奢られている場合がある。要するに、フレームとエンジンのみを旧車から受け継ぎ、あとはすべて「作り直す」という姿勢だ。

Honda CB750 SOHC custom cafe racer aluminium Photo: 2023 Honda CB750 Hornet by Chanokchon, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)

Up Yours——中指を立てた挑発と、その裏にある金属加工の極致

DMOLの全作品の中で、おそらく最も物議を醸し、同時に最も高い技術評価を受けたのが「Up Yours」である。車名の意味は英語圏のスラングで「くたばれ」に近い。上品とは言い難い名前だが、車両そのものは上品どころか、異様なまでに精緻だ。

ベース車両はトライアンフのツイン系エンジンを搭載した車両とされる。トライアンフの並列2気筒──いわゆるボンネビル系のエンジンは、英国カスタム文化において最も頻繁に素材として選ばれるユニットのひとつだ。OHVからOHC、そしてモダンツインへと系譜が続くが、DMOLが選んだのはクラシックな空冷ユニットの側である。

この車両の最大の特徴は、機械式の「動く彫刻」としての側面だ。外装の至るところに、機械加工された金属パーツが「装飾」として配されている。しかしそれは単なるクロームメッキのアクセサリーではない。歯車、リンク機構、精密に噛み合う金属片——まるで時計のムーブメントを拡大してバイクの外装に貼り付けたかのような意匠である。こうした装飾的機構の一部は実際に可動するとされ、静止した状態でも「動き出しそうな緊張感」を湛えている。

技術的に注目すべきは、この種の精密金属加工が「見せるための加工」として成立している点だ。通常、カスタムバイクにおける金属加工は機能のためにある。フレーム補強、エンジンマウント、スイングアームのピボット——構造を成立させるための加工だ。しかしDMOLは、機能とは直接関係しない「装飾のための精密加工」に膨大な時間を注ぐ。これはアール・デコ期の高級時計や、ヴィクトリア朝の精密機械に通じる美意識であり、英国の工芸史という文脈で見ると、実は極めて正統な系譜に位置づけられる。

公開された画像を仔細に見ると、溶接ビードの処理、面取りの統一感、ボルトの頭の向きに至るまで、ある種の強迫的なまでの統一が貫かれている。こうした「見えない部分の仕上げ」は、一般に「ショーバイク」と「ストリートマシン」を分ける分水嶺とされるが、DMOLの場合は「ショーバイク」という言葉すら物足りない。もはや金属工芸の展示物に近い。

📺 関連映像: Death Machines of London Up Yours custom motorcycle build — YouTube で検索

Triumph custom motorcycle metal art sculpture Photo by Rohan Rego on Unsplash

なぜロンドンなのか——英国カスタム文化の地層

DMOLの作風を理解するには、ロンドンという都市の文化的地層に少し触れておく必要がある。

英国は、カフェレーサー文化の発祥地として知られる。1950〜60年代、ロンドンのエースカフェを拠点に若者たちがトライアンフやノートン、BSAを改造して速さを競った。この文化は「トン・アップ・ボーイズ」として語り継がれ、カフェレーサーという様式を世界に広めた。しかし英国のバイク文化にはもうひとつの系譜がある。それは「コーチビルディング」——車体を職人の手で一台ずつ仕立てる伝統だ。

自動車の世界では、ロールス・ロイスやベントレーのシャシーにパーク・ウォードやマリナーといったコーチビルダーがボディを架装する文化が20世紀半ばまで続いた。この「シャシーとボディは別の職人が作る」という思想は、考えてみればカスタムバイクの構造そのものだ。エンジンとフレームという「シャシー」を量産メーカーから受け取り、外装と仕立てをビルダーが担う。DMOLの仕事は、カフェレーサーの反骨精神と、コーチビルダーの工芸精神を同時に引き継いでいるように見える。

ロンドンには現在も金属加工の職人ネットワークが存在する。シルバースミス(銀細工師)、パネルビーター(板金職人)、精密機械加工の小規模工房——こうした職人たちが、自動車やバイクの世界だけでなく、建築装飾や舞台美術、美術品修復の分野にもまたがって活動している。DMOLのビルドに見られる金属加工の水準は、こうした都市のインフラに支えられている部分があると考えるのが自然だ。

加えて、英国のカスタムシーンには「Bike Shed Motorcycle Club」に代表される、カスタム文化をアートやファッションと接続するムーブメントが2010年代以降に定着した。ロンドンのショアディッチ地区に常設スペースを持つBike Shedは、カスタムバイクの展示とカフェ・バーを融合させた空間として知られ、DMOLの作品もそこで展示されたことがあるとされる。こうした環境が、「走る彫刻」としてのカスタムバイクに対する需要と理解を育てた。

London motorcycle cafe racer culture workshop Photo by Dan Burton on Unsplash

入手と相場——「買える」のか、という問い

DMOLの車両は、基本的にコミッション(受注製作)で作られる。価格は公式に明示されていないが、一台あたりの製作期間が数ヶ月から一年以上に及ぶこと、使用される素材と加工の密度から推して、五桁ポンド(日本円で数百万円から一千万円超)の領域に達することは想像に難くない。これは「カスタムバイク」としては高額だが、「一点制作の金属彫刻作品」として見れば、むしろ美術品市場の文脈に近い価格帯だ。

過去に完成した車両がセカンダリーマーケット(中古市場)に出たという情報は、少なくとも広く知られた事例としては確認しにくい。製作台数が極めて少なく、オーナーが手放さないためだろう。コレクターズアイテムとしての希少性は、年を追うごとに高まっていると見るのが妥当だ。

日本から入手を考える場合、直接コンタクトして製作を依頼するか、あるいは今後セカンダリーで出た際に海外オークションハウスを経由するか、いずれにしても通常のバイク購入とは異なるルートが必要になる。そもそも「乗るために買う」のか「飾るために買う」のかで、車検や登録の問題も変わってくる。公道走行を前提とする場合、保安基準への適合確認が不可欠であることは言うまでもない。

custom motorcycle collector art gallery display Photo by Doon _MUC on Unsplash

まとめ——機能の外側にある「意味」を金属で刻む

Death Machines of Londonの仕事は、カスタムバイクの定義を拡張する試みだ。速く走るためでも、快適に巡航するためでもなく、「金属で何かを語る」ためにバイクを作る。その姿勢は万人向けではないし、模倣も容易ではない。だが、量産車とアフターパーツの組み合わせだけがカスタムのすべてではないことを、彼らの作品は静かに、しかし圧倒的な物量で証明している。

英国のコーチビルディングの伝統、カフェレーサー文化の反骨、そして現代アートの文脈——それらが交差する地点に、DMOLは立っている。一台のバイクに費やされた工数と執念を想像するだけで、金属加工という行為そのものへの敬意が湧いてくる。

より深くこの領域を知りたい方には、まずChris Hunter編著の『Bike EXIF: The Ride – 2nd Gear』(Gestalten刊)を薦めたい。世界のカスタムビルダーを網羅的に取り上げた一冊で、DMOLのようなアート寄りのビルダーにも紙幅が割かれている。また、Robert Klanten, Maximilian Funk編の『The Ride: New Custom Motorcycles and Their Builders』(同じくGestalten刊)も、カスタム文化の全体像を掴むには好適だ。英国のカスタムシーンを継続的に追うなら、『Sideburn Magazine』のバックナンバーも参照されたい。ダートトラック系が主軸の媒体ではあるが、英国発のビルダー情報が濃く、DMOLのような異端にも目配りが効いている。

📺 関連映像: Death Machines of London custom motorcycle workshop — YouTube で検索


本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。

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