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2026-08-25カスタム

Maxwell Hazan「Black Sands Beach」── BSA A50を彫刻に変えた男の、鋳造と旋盤の流儀

NYとLAを拠点に活動するMaxwell Hazanの代表作BSA A50カスタム「Black Sands Beach」の構造美と設計思想を読み解く。

Maxwell Hazan「Black Sands Beach」── BSA A50を彫刻に変えた男の、鋳造と旋盤の流儀
Photo by Markus Spiske · Source

「機械」が「彫刻」に変わる瞬間

二輪のカスタムビルドにおいて、「アート」という言葉はしばしば安売りされる。ペイントが派手であれば「アート」、フレームを切り詰めれば「アート」。だが、素材の塊から部品を一つずつ削り出し、鋳造し、ロウ付けし、旋盤で仕上げていく工程そのものが作品になるビルダーは、世界を見渡しても数えるほどしかいない。Maxwell Hazan(マックスウェル・ヘイザン)は、その稀な一人である。

ニューヨークとロサンゼルスを行き来しながら制作を続けるHazanの仕事は、「カスタムバイク」という枠組みに収まりにくい。彼が手がけた車両は、美術館やギャラリーでの展示歴を持ち、二輪メディアよりもむしろデザイン・アート系メディアで取り上げられる頻度が高いとされる。その代表作の一台が、BSA A50ユニットツインをベースとした「Black Sands Beach」だ。

この車両を語るには、まずHazanという人物の出自と方法論を知る必要がある。彼は自動車やバイクの世界から出発したわけではない。彫刻と金属加工を学んだ背景を持ち、二輪車を「動く彫刻」として捉えるという視座は、趣味のカスタムビルダーとは根本的に異なる。エンジンという既存の機械を核に据えつつ、その周囲を構成するすべての部品を自らの手で形にする。フレーム、スイングアーム、三又、タンク、シート、マフラー、さらにはハブやブレーキペダルに至るまで。量産品を「選んで組む」のではなく、「素材から生む」のがHazanの流儀である。

Maxwell Hazan custom motorcycle sculpture metal Photo by Wenhao Ruan on Unsplash

BSA A50ユニットツイン──「Black Sands Beach」の心臓

「Black Sands Beach」のエンジンに選ばれたのは、BSA A50の499cc空冷OHVパラレルツインである。BSAがA50を市場に投入したのは1962年。A65(654cc)と基本設計を共有するユニット構造で、エンジンとトランスミッションが一体鋳造のクランクケースに収まる。この「ユニットコンストラクション」は、それ以前のBSAプレユニットモデル──A7やA10──がエンジンとギアボックスを別体としていたのに対し、製造コストの削減と車体のコンパクト化を狙った設計変更だった。

A50の公称出力は、年式や仕様によって異なるが、概ね28〜34馬力程度とされる。スポーツ志向の「Cyclone」や「Royal Star」といった派生モデルも存在したが、いずれも当時の日本製四気筒が台頭する1960年代後半には性能面で見劣りする存在になっていった。しかし、Hazanがこのエンジンを選んだ理由は馬力ではない。ユニットツインの外形が持つ塊感、鋳肌の質感、そして何よりも「彫刻の台座」として成立する造形的なプロポーションが、彼の美学に合致したと考えるのが自然だろう。

BSA A50のバルブトレインは、カムシャフトがクランクケース内に配置されるOHV方式で、プッシュロッドとロッカーアームを介してバルブを駆動する。シリンダーヘッドの上面にはロッカーボックスが鎮座し、その形状は無骨でありながら一種の秩序を感じさせる。空冷フィンの間隔と深さは、1960年代の英国車に共通する設計言語──冷却効率と鋳造の歩留まりの妥協点──を反映している。Hazanの車両では、このエンジンが剥き出しのまま車体の中心に据えられ、周囲のハンドメイド部品との対比によって、むしろ工業製品としての存在感を際立たせている。

BSA A50 twin engine vintage British motorcycle Photo: A50 road map by Map generated using data from OpenStreetMap and licensed under CC-by-SA, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 3.0)

鋳造と旋盤──Hazanの制作手法を構造から読む

Hazanの車両を特徴づけるのは、ブロンズ(青銅)やアルミニウムの鋳造部品と、旋盤・フライス盤で削り出された金属部品の共存である。「Black Sands Beach」においても、フューエルタンクやオイルタンクは板金ではなく鋳造によって形作られたとされる。鋳造とは、溶かした金属を型に流し込んで固める加工法であり、バイクのカスタムにおいてはエンジンケースやホイールハブなど一部の部品に使われることはあっても、外装全体を鋳造で仕上げるビルダーは極めて珍しい。

鋳造にはいくつかの方式がある。Hazanが用いるとされるロストワックス(失蝋)鋳造は、蝋で原型を作り、その周囲に耐火材のシェルを形成し、加熱して蝋を溶かし出した空洞に金属を流し込む方法だ。航空宇宙部品やジュエリー、そして彫刻の分野では古くから使われてきた技法であり、複雑な三次元形状を高い精度で再現できる。ただし量産には向かず、一点ものや少量生産に適している。まさにHazanの制作スタイルに合致する方法論である。

一方、フレームやスイングアームといった構造部材には、スチールパイプの曲げ加工と溶接が用いられるが、その接合部や末端処理にも旋盤で削り出したジョイントピースが組み込まれることがある。量産車のフレームであれば、ガセットプレートを溶接して補強するのが一般的だが、Hazanの車両ではジョイント部分自体が造形的な意図を持ち、構造と装飾が一体化している。これは自転車のラグ接合(ラグドフレーム)に近い思想ともいえるが、その仕上げの解像度は別次元にある。

ブレーキペダルやシフトレバーといった小物部品も例外ではない。市販のアフターマーケット品を流用するのではなく、無垢のアルミやブロンズから一つずつ削り出す。こうした部品は機能的には既製品で十分に代替可能だが、Hazanにとっては車体全体の造形的統一──素材の色調、表面処理のグラデーション、曲線の連続性──を担保するために不可欠な要素なのだろう。

📺 関連映像: Maxwell Hazan motorcycle build process — YouTube で検索

bronze casting lost wax motorcycle custom parts Photo by engin akyurt on Unsplash

「Black Sands Beach」という名の示すもの

車名の「Black Sands Beach」は、カリフォルニア北部のロストコースト沿いに点在する黒砂の海岸を指すとされる。火山性の玄武岩が波と風に砕かれて黒い砂となったその海岸線は、観光地化されておらず、荒涼とした美しさで知られる。Hazanがこの名を冠した意図を直接確認した公開資料は限られるが、車両の仕上げ──マットブラックと生金属の対比、研磨を抑えた鋳肌の質感──が、あの海岸の色調と手触りを想起させるのは確かだ。

この車両が注目を集めた場面として広く知られるのは、アメリカ国内のカスタムショーやアート展示への出品である。Hazanの作品は、The Handbuilt Motorcycle Showなどのイベントで紹介されてきた経緯がある。二輪カスタムの世界では、ショーバイクとストリートバイクの間に暗黙の境界線がある。「走れるのか」という問いは、ショーバイクに対して常につきまとう。Hazanの車両がその線引きのどこに位置するかは議論があるが、少なくとも「動く機械」として設計されていること──エンジンは実動し、駆動系は機能する──は公開情報から読み取れる。ただし、公道走行を前提とした保安部品の装着状況や、各州の車検基準への適合については別の話だ。

この車両の価値は、速さでも実用性でもなく、「人間の手と工作機械だけで、一台のバイクをゼロから作り上げる」という行為そのものにある。3Dプリンタやデジタルスキャンが普及した現在、手作業による鋳造と旋盤加工は時代遅れにも映る。しかし、デジタル工法が再現できないのは「鋳肌に残る偶然性」や「刃物の送り速度が決める表面の微細な段差」といった、手仕事に固有のテクスチャだ。Hazanの車両が見る者を惹きつけるのは、そうした工程の痕跡が意図的に残されているからだろう。

black sand beach California coastline volcanic motorcycle Photo by Nijansh Verma on Unsplash

カスタムビルドの系譜におけるHazanの位置

二輪カスタムの歴史を大きく俯瞰すると、チョッパー、ボバー、カフェレーサー、トラッカー、スクランブラーといったスタイルの潮流がある。Hazanの仕事は、そのいずれにも明確には分類できない。強いて言えば、ボードトラックレーサーの要素──細身のフレーム、最小限の外装、むき出しの機械──を現代の造形言語で再解釈したものに近いが、それも一面的な理解に過ぎない。

むしろHazanの系譜を考えるなら、二輪よりも彫刻や工芸の文脈に目を向ける方が適切かもしれない。20世紀初頭のイタリア未来派がスピードと機械を美の対象として扱ったように、Hazanはエンジンという産業革命の産物を彫刻の核として再定義している。同時代のカスタムビルダーでは、シカゴのRevival Cycles(リバイバル・サイクルズ)やポートランドのSee See Motorcycles(シーシー・モーターサイクルズ)のように、ハンドビルドの精度と美意識を追求する工房がいくつか存在するが、鋳造という古典的な金属加工を制作の中核に据える点で、Hazanの独自性は際立つ。

英国車、とりわけBSAやTriumph、Nortonのユニットツインをベースに選ぶビルダーは海外にも少なくないが、多くはフレームとエンジンを既存の組み合わせで活かし、外装や足回りで個性を出す。Hazanの場合、フレーム自体を一から設計・製作するため、ベースエンジンの選択はあくまで「造形の起点」としての意味合いが強い。BSA A50が持つコンパクトなユニットツインの外形は、周囲に空間を確保しやすく、鋳造部品や削り出し部品を「見せる」配置がしやすいという構造的利点がある。エンジン単体が大きすぎれば、周囲の部品は背景に沈む。A50の499ccという排気量は、造形的なバランスにおいて理に適った選択だったといえる。

board track racer vintage motorcycle minimalist design Photo by Jeff Cooper on Unsplash

まとめ──この一台は何だったのか

Maxwell Hazanの「Black Sands Beach」は、カスタムバイクという枠組みの辺境に位置する一台だ。速く走ることも、遠くへ行くことも、おそらくはその存在理由ではない。BSA A50のユニットツインという60年以上前の機械を中心に据え、鋳造と切削という古典的な金属加工で車体を構築する。その工程と結果の双方に、工業製品とも手工芸品とも異なる独特の密度がある。

カスタムビルドの世界は、SNSの普及とともに画像消費のサイクルが加速し、「映える一枚」のために表面だけを整えた車両も増えた。そのなかでHazanの仕事が一定の評価を維持しているのは、表面の仕上げではなく、素材と工法の選択から一貫した思想が読み取れるからだろう。鋳肌の凹凸、旋盤の切削痕、ロウ付けの接合線──これらは通常、仕上げの段階で消される「製造工程の痕跡」だが、Hazanはそれを意図的に残す。その判断が、車両全体に「時間の手触り」を与えている。

BSA A50の中古相場は、状態と年式によって大きく変動するが、英国車専門の販売業者やオークションサイトで確認する限り、完成車で数千ドルから、レストア済みの好条件車でも1万ドル台半ばまでが一般的な範囲とされる。ベースとしての入手性は、TriumphのボンネビルやNortonのコマンドーに比べればやや劣るものの、パーツの供給はBSA Owners' Clubや英国車パーツの専門商社を通じて一定の水準が維持されている。もっとも、Hazanのような制作手法を真似るには、金属加工の設備と技術が大前提であり、エンジン入手のハードルはむしろ低い方だ。

この車両の本質は、「バイクに乗る」ことの手前にある「バイクを作る」という行為の純度にある。走ることと作ることは、二輪文化の両輪だ。Hazanの仕事は、その「作る」側の極北を示している。

より深くこの領域に踏み込みたい方には、以下の書籍・雑誌が手がかりになる。グッゲンハイム美術館が1998年に開催した展覧会の図録『The Art of the Motorcycle』(Guggenheim Museum Publications刊)は、二輪車を美術の文脈で論じた先駆的な一冊であり、Hazanの仕事を理解する補助線となる。Paul d'Orléans著『Café Racers: Speed, Style, and Under-the-Radar Engineering』(Gestalten刊)は、カフェレーサーを軸に英国車カスタムの系譜を丁寧に追った写真集で、BSAやTriumphのベースエンジンに関する記述も豊富だ。国内では、『カスタムバーニング 2019年2月号』(造形社刊)が海外ビルダーの特集を組んでおり、Hazanの同時代的な位置づけを知る参考になる。

📺 関連映像: BSA A50 engine sound running vintage British twin — YouTube で検索


本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。

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