The 1 Moto Show──ポートランドの倉庫に毎冬バイクが集まる理由
Thor Drakeが主宰するThe 1 Moto Showの成り立ち、思想、展示の特徴、そしてカスタム文化における位置づけを解説する。
冬のポートランド、倉庫のなかの熱量
毎年2月、オレゴン州ポートランドの旧い倉庫や産業スペースにバイクが並ぶ。大手メーカーの旗艦モデルではない。ガレージで一人か二人が組み上げた、量産の枠に収まらない車両たちだ。The 1 Moto Show──2010年代初頭にThor Drake(ソー・ドレイク)が始めたこのイベントは、北米西海岸のカスタムバイク文化を語るうえで避けて通れない存在になった。
日本でいえば、横浜のムーンアイズ主催のショーや名古屋のジョインツカスタムバイクショーが近い立ち位置だろう。しかしThe 1 Moto Showには、それらとも異なる空気がある。エントリー車両に排気量や車種の縛りがほとんどなく、ハーレーもホンダもBMWもウラルも、果てはモペッドやミニバイクまで同じ床に並ぶ。審査基準はコンクール・デレガンスのような完成度の減点方式ではなく、「そのビルダーが何をやりたかったのか」という意志の密度で見る。結果として、塗装の仕上がりが粗くても、溶接ビードが美しくなくても、思想が通っている車両が評価される。この姿勢がポートランドという土地の気質と合致し、毎年の開催を重ねるごとに来場者と出展者の層が厚くなっていった。
Photo by Sean Benesh on Unsplash
Thor Drakeという人物とSee See Motorcycles
The 1 Moto Showを語るには、主宰者Thor Drakeの背景に触れる必要がある。Drakeはポートランドを拠点にSee See Motorcyclesというカフェ兼モーターサイクルカルチャースペースを運営してきた人物だ。See Seeは単なるバイクショップではなく、コーヒーを出しながらカスタムバイクを展示し、地元のビルダーやライダーが集まるコミュニティの結節点として機能してきた。
Drakeの思想の根底にあるのは、バイク文化の敷居を下げることだと広く言われている。高価なパーツや最新のCNCマシニングがなくても、自分の手でバイクを変えるという行為そのものに価値がある──この考え方がThe 1 Moto Showの骨格を形作っている。北米のカスタムショーには、SEMA Showのように巨大資本と高額ブースが前提のものもあれば、Born Free(ボーンフリー)のようにチョッパーカルチャーに特化したものもある。The 1 Moto Showはそのどちらでもない。DIYの延長線上にある文化祭、という表現がもっとも近い。
Drakeは自らもビルダーとして車両を製作し、フラットトラックレースのイベント「Superhooligan」の立ち上げにも関わっている。Superhooliganは市販のストリートバイクをベースにダートオーバルを走るという形式で、敷居の低さとスペクタクルを両立させた企画として北米各地に広がった。こうした複数のプロジェクトが相互に補強し合い、See See / The 1 Moto Show / Superhooliganという三本柱がポートランド発のバイクカルチャーとして認知されるようになった経緯がある。
Photo by Sean Benesh on Unsplash
展示車両に見るカスタムの幅──ジャンルの壁がない空間
The 1 Moto Showの最大の特徴は、展示車両のジャンルに垣根がないことだ。一般的なカスタムショーでは、チョッパー、ボバー、カフェレーサー、トラッカー、アドベンチャーといったカテゴリごとにクラス分けがなされ、それぞれの評価基準で審査される。The 1 Moto Showにもアワードは存在するが、カテゴリの境界は極めて曖昧で、そもそもカテゴリに収まらない車両のほうが歓迎される傾向がある。
過去の展示車両を俯瞰すると、そのスペクトルの広さに驚く。1970年代の空冷シングルを最小限のフレームに載せたストリップダウン・トラッカーの隣に、BMW Rシリーズのボクサーエンジンを剥き出しにしたミニマリスト・ビルドが置かれ、その向かいにはヤマハSR400のタンクを叩き出しで作り直したカフェレーサーが鎮座する。ハーレーのショベルヘッドやパンヘッドを使ったチョッパーも当然いるが、それが会場の主役を独占することはない。
技術的な視点で注目すべきは、近年の展示車両におけるフレームワークの多様化だ。かつてカスタムバイクといえば、既存のフレームをチョップ(切断)してネック角を変え、リジッドに改造するというハードテール加工が定番だった。The 1 Moto Showの出展車には、クロモリ鋼管を一から曲げてフレームを設計するビルダーが少なくないとされる。クロモリ(クロムモリブデン鋼)は引張強度が高く、同等の強度を確保しながらパイプ径や肉厚を細くできるため、視覚的な軽やかさとフレームとしての剛性を両立しやすい。一方で溶接には技術と適切な後処理が求められ、量産フレームをベースにするより手間も失敗のリスクも大きい。その手間を承知で一本のパイプから始めるビルダーが集まる場だからこそ、完成車のシルエットに量産車にはない有機的な線が生まれる。
Photo by Andriy Miyusov on Unsplash
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ポートランドという土地の文脈
なぜポートランドなのか。この問いに対する回答は、バイク文化だけでは完結しない。ポートランドは2000年代後半から「DIYカルチャーの首都」とも評される都市になった。クラフトビール、自家焙煎コーヒー、ジンの蒸留所、手製の革製品、木工家具──小規模生産者が自分の名前で物を作り、それを正当に評価する消費者がいるという生態系が、この街には根づいている。
バイクのカスタムもその延長線上にある。大量生産された工業製品を、個人の意志と技術で別のものに変容させる行為。それはポートランドの住民にとって、クラフトビールを自分のレシピで醸すことと地続きの感覚なのだろう。実際、The 1 Moto Showの会場ではローカルのブルワリーやフードトラックが出店し、バイクに興味のない層も含めた「街の催し」としての性格を帯びている。
加えて、ポートランドはアメリカ西海岸のなかでもサンフランシスコやロサンゼルスに比べて生活コストが相対的に低かった時期が長く、若いクリエイターやビルダーがガレージ付きの住居を構えやすかったという背景もある。家賃が安い街にアーティストが集まり、アーティストが集まった街に文化が育ち、文化が育った街の家賃が上がる──という循環はポートランドでも進行しているが、The 1 Moto Showはその文化的蓄積の上に立つイベントだ。
もう一つ、気候の要因がある。ポートランドの冬は雨が多く、ライディングシーズンとしては完全なオフだ。ガレージにこもってバイクをいじる時間が長い。その成果を2月の会場に持ち込む──というサイクルが、冬季開催のショーとして自然なリズムを生んでいる。
Photo by Sean Benesh on Unsplash
北米カスタムショーの生態系における位置づけ
The 1 Moto Showの立ち位置を理解するには、北米におけるカスタムショーの生態系を整理しておきたい。
最大級の規模を持つのはSTURGIS(スタージス)やDaytona Bike Week(デイトナ・バイクウィーク)だが、これらはラリー(集会)の性格が強く、カスタムショーとしてはその一部にすぎない。純然たるカスタムショーとしてはBorn Free Show(カリフォルニア州)が北米チョッパー文化の最重要イベントとして知られ、Mama Tried Motorcycle Show(ウィスコンシン州ミルウォーキー)がミッドウエストの拠点となっている。Handbuilt Motorcycle Show(テキサス州オースティン)はRevival Cyclesが主宰し、ハイエンドなビルドと新興ビルダーの発掘を両立させている。
The 1 Moto Showはこれらのなかで「もっともアンダーグラウンド寄り」と位置づけられることが多い。入場料は比較的安価で、出展のハードルも低い。プロのカスタムショップと、ガレージで初めてバイクを組んだアマチュアが同じ空間に並ぶ。この「間口の広さ」がThe 1 Moto Showの核であり、同時に、洗練されたビルドだけを見たい層にとっては物足りなさを感じる部分でもある。しかし、その雑多さこそがこのショーの生命線だという見方が支持されてきた。カスタムバイク文化は裾野が広がらなければ先細る。入口のないシーンに新しい血は入らない。The 1 Moto Showは意識的にその入口であり続けようとしている。
近年は新型コロナウイルスの影響で一時的に開催が中断されたが、その後は復活し、2020年代半ばの時点でも継続して開催されている。規模や会場が年によって変動するため、参加を検討する場合はSee See Motorcyclesの公式チャネルで最新情報を確認するのが確実だ。
まとめ──倉庫のなかのバイク文化が問いかけるもの
The 1 Moto Showは、バイクの「完成度」や「価格」ではなく「意志」を評価軸に据えた、稀有なカスタムショーだ。Thor Drakeが築いたSee See Motorcyclesという場と、ポートランドのDIY気質、そして冬のガレージワークという季節の巡りが重なって、このイベントは毎年の年中行事として定着した。
日本のカスタム文化にも通じる部分は多い。量産車をベースに個人の美意識で仕立てるという行為は、日本のストリート系カスタムやチョッパーシーンにも脈々と流れている。The 1 Moto Showが示しているのは、その行為に「正解」はなく、やった者が集まれる場所さえあれば文化は回る、というシンプルな原則だ。
カスタムバイク文化を写真と文脈で深く掘り下げたい向きには、Chris Hunter著『Bike EXIF: The Ride – 2nd Gear』(Gestalten刊)が世界各地のビルダーを網羅しており資料的価値が高い。チョッパーカルチャーの歴史的背景を知るにはPaul d'Orléans著『The Chopper: The Real Story』(Motorbooks刊)が一次資料に基づいた良書である。また、イギリス発の『Dice Magazine』のバックナンバーはDIYカスタムの空気感を生々しく伝えており、The 1 Moto Showの精神と共鳴する部分が多い。
📺 関連映像: Thor Drake See See Motorcycles interview — YouTube で検索
本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。
📚 この記事で紹介した書籍
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Bike EXIF: The Ride – 2nd Gear
Chris Hunter / Gestalten
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The Chopper: The Real Story
Paul d'Orléans / Motorbooks
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Dice Magazine バックナンバー
Dice Publications
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