Auto Fabrica Type シリーズ——英国の兄弟が削り出す、走る抽象彫刻という流儀
ロンドン拠点のAvdiaj兄弟が手がけるAuto Fabricaのカスタムバイク。Type番号で呼ばれる作品群の設計思想と技術を読み解く。
番号だけが名前になるバイク
カスタムバイクに名前を付ける文化は古い。「Captain America」も「Black Bomber」も、ビルダーが車両に人格を与える行為だった。ところがロンドン南部を拠点とする Auto Fabrica(オート・ファブリカ)は、完成車に「Type 11」「Type 0」といった番号しか振らない。ペットネームを排し、シリーズのナンバリングだけで語らせる。その姿勢は、バイクを交通手段としてもライフスタイル・アイコンとしてもなく、あくまで造形物として提示する意志の表れだ。
主宰するのはコソボにルーツを持つ Bujar Avdiaj(ブヤール・アヴディアイ)と弟の Gaz Avdiaj(ガズ・アヴディアイ)。二人はロンドンで育ち、プロダクトデザインと彫刻を学んだ背景を持つとされる。2013年頃から活動を本格化させ、ヤマハの SR やXS をベースにした初期作品で注目を集めた。以来、世界のカスタムメディアで繰り返し取り上げられてきたが、年間の製作台数はごく少ない。量産ビルダーではなく、一台ごとに時間をかける工房である。
彼らの作品を見て最初に受ける印象は「引き算の徹底」だ。フレームの余計なタブは削られ、外装は一枚のアルミ板から叩き出されたような面構成を持つ。配線はフレーム内に隠され、スイッチ類は最小限。カフェレーサーの文法を踏襲しつつも、どこかミニマリズムの家具や建築模型を連想させる佇まいがある。英国のカスタムシーンには Untitled Motorcycles や deBolex Engineering など個性的なビルダーが多いが、Auto Fabrica の造形はそのなかでも際立って彫刻的だ。
Photo by Christopher Burns on Unsplash
ヤマハ SR/XS から始まった Type ナンバーの系譜
Auto Fabrica の初期作品は、ヤマハ SR400/SR500 を母体としたものが中心だった。SR はカスタムの定番ベースだが、Avdiaj兄弟の手にかかると空冷単気筒のソリッドな塊感が、都市建築のようなシャープさに変換される。「Type 1」と呼ばれる初期作はSR500ベースとされ、タンクからシートカウルにかけてのラインを一体の造形として設計していた。通常のカフェレーサーカスタムが「タンク+シングルシート+セパハン」という定型を踏襲するのに対し、Auto Fabrica は外装全体をひとつの面として捉え直す。
ヤマハ XS650 をベースにした作品群もある。XS650 の並列二気筒は振動と味わいで世界中にファンを持つエンジンだが、Auto Fabrica はそのメカニカルな存在感をむしろ抑制する方向でデザインする。エンジンを黒く塗り、フレームと外装の色調に溶かし込む手法は、彼ら以前のXSカスタムではあまり見られなかったアプローチだ。機械としての主張より、全体のシルエットとしての純度を優先する。
その後、BMW やモト・グッツィの空冷ボクサー/縦置きVツインをベースにした作品へと展開が広がった。「Type 11」はBMW R75/6あるいはR80系をベースにしたとされるモデルで、水平対向エンジンのシリンダーヘッドが左右に突き出す構造を活かしつつ、それ以外の要素を極限まで削ぎ落とした仕上がりだった。ボクサーエンジンはシリンダーが外に張り出すため、横幅が視覚的に広くなりがちだが、Auto Fabrica はタンクとシートの幅を極端に絞ることで、エンジンの存在を「台座の上の彫刻」のように見せていた。
ベース車両の選定には一貫した傾向がある。いずれも空冷で、構造がシンプルで、フレームのジオメトリに手を入れやすい旧車が選ばれている。水冷マルチや電子制御満載の現行車がベースになることは、少なくとも公開されている作品群にはない。それは技術的制約というより、彼らが求める「面の連続性」を実現するための条件だろう。水冷ラジエターやECU、触媒付きの排気系は、ミニマルな造形の敵になる。
Photo: 1979 Yamaha SR500 (6805517070) by Freebird from Madrid, Spain, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 2.0)
アルミの手叩きとフレームワーク──Auto Fabrica の技術的核心
Auto Fabrica の外装が持つ独特の面質は、アルミニウムの手叩き成形(English wheel やハンマーフォーミングによるパネル製作)に拠るところが大きいとされる。CNC 切削やカーボンファイバー成形が主流になりつつあるカスタム界において、手叩きアルミはある意味で旧式だが、完成した面のテンションと微細な歪みが生む陰影は、機械加工では得られない。彼らの外装パネルが「彫刻的」と評される理由の一つは、この成形法にある。
English wheel(イングリッシュ・ホイール)は上下の鉄製ローラーの間にアルミ板を通して曲面をつけていく板金工具で、本来は航空機のカウリング製作に使われた技法だ。熟練した板金工は、一枚の平板からフルフェアリングを叩き出すことができる。Auto Fabrica のタンクやシートカウルは、溶接の継ぎ目を最小限にした一体感のある面で構成されており、英国の伝統的な板金技術の流れを汲んでいることが見て取れる。
フレームに対するアプローチも特徴的だ。多くのカフェレーサー・ビルダーがフレームのシートレール部分をカットしてループ化する「リアフレーム・ループ」処理を行うが、Auto Fabrica はそのループの角度や長さ、外装との接合面を極めて厳密に設計しているとされる。外装パネルがフレームに「被さる」のではなく、フレームと外装が同一の造形意図のもとに一体化しているように見える仕上がりは、構造設計と外装設計を同時進行で進めているからこそ可能になる。
電装系の処理も徹底している。一般的なカスタムバイクではハーネスの取り回しがフレームの外側に露出し、そこをテープで巻いたりメッシュスリーブで覆ったりするが、Auto Fabrica の作品ではハーネスがほぼ見えない。配線をフレームのパイプ内部に通す、あるいはヘッドライトやメーターのマウント内に集約するといった手法を採っているとされる。旧車ベースの場合、元のワイヤーハーネスをそのまま使えば配線量は膨大になるが、点火系をフルトランジスタ化し、灯火類をLED化することでハーネスの物量自体を減らしている可能性がある。もちろん、こうした処理は整備性を犠牲にする面もあり、実用車というよりは展示・鑑賞を前提とした設計思想が透けて見える。
Photo by Markus Spiske on Unsplash
📺 関連映像: Auto Fabrica Type custom motorcycle build — YouTube で検索
「作品」としてのカスタムバイク──モーターサイクルとアートの境界
Auto Fabrica の立ち位置は、いわゆる「カスタムショップ」とは少し異なる。彼らの作品はロンドンのデザインフェスティバルやギャラリーに展示されることがあり、バイク雑誌よりもデザイン誌や建築系メディアで紹介される頻度が高い時期もあった。これはバイク文化の中では珍しい現象だが、二輪車が工業製品であると同時に造形作品でもあるという認識は、実はそう新しいものではない。ニューヨーク近代美術館(MoMA)がグッゲンハイム美術館に先立って二輪車をコレクションに加えたのは1930年代まで遡るし、グッゲンハイムが「The Art of the Motorcycle」展を開催したのは1998年のことだ。
しかし、美術館に飾られるバイクの多くは量産車の「デザインとしての完成度」を評価されたものであり、カスタムバイクがアート文脈で語られるようになったのは比較的最近のことだ。その流れを作ったビルダーの一人に、米国の Shinya Kimura(木村信也)がいる。木村の作品は「Chabott Engineering」名義で知られ、錆びた鉄と手曲げの排気管で構成された造形はウェアラブルアートとも評された。Auto Fabrica の方向性は木村とは対極的——錆びではなく磨かれたアルミ、有機的な歪みではなく幾何学的な面構成——だが、「乗り物を超えたところにバイクの価値を見出す」という根本的な姿勢には通底するものがある。
Avdiaj兄弟がプロダクトデザインの教育を受けた世代であることは、彼らの作品に色濃く反映されている。2000年代以降の英国プロダクトデザイン教育では、素材の選定から加工法、表面処理、ユーザーインターフェースの設計まで一貫して考える方法論が主流になっている。バイクのカスタムという行為にその方法論を持ち込んだとき、「タンクだけ替える」「マフラーだけ替える」というパーツ単位のアプローチではなく、車両全体をひとつのプロダクトとして再設計するという発想になるのは自然な帰結だ。
ただし、この「作品としてのバイク」という方向性には、当然ながら批判もある。走らないバイク、走れないバイクは本質的にバイクなのかという問いだ。Auto Fabrica の作品が実際にどの程度走行に供されているかは公開情報だけでは判然としないが、少なくとも公開されている映像ではエンジンが始動し、路上を走行している様子が確認できる。完全な静態展示物ではなく、走行可能な状態を維持することを前提に製作されていると見るのが妥当だろう。
Photo by Soroush golpoor on Unsplash
相場と入手性、そして「Type」の現在地
Auto Fabrica の作品は基本的にコミッション(受注制作)であり、量産品としての流通はない。価格は公式に開示されていないが、同等のハイエンド・カスタムビルダー(Deus Ex Machina のワンオフや Walt Siegl のビスポークなど)の相場から推測すると、一台あたり数万ポンド(数百万円〜一千万円超)の領域と考えるのが常識的だ。中古市場に出ることもきわめて稀で、仮に出たとしてもコレクターズアイテムとしてのプレミアムが乗る可能性が高い。
一般のライダーが Auto Fabrica の世界に触れる入口は、実車の購入ではなく、彼らの設計思想を自分のビルドに応用することだろう。具体的には、外装パネルとフレームラインの一体設計を意識すること、配線の隠蔽にこだわること、塗装や表面仕上げに「面のテンション」という概念を持ち込むこと。これらは高級な工具がなくとも、設計段階での意識で実現できる部分がある。
2020年代に入り、カスタムバイクのトレンドはネオクラシックの量産車(ヤマハ XSR、カワサキ Z900RS、トライアンフ Speed Twin など)をベースにしたライトカスタムに軸足を移しつつあるが、Auto Fabrica のような「フルビスポーク」の工房は、そうしたトレンドとは別の時間軸で動いている。年間の製作台数が限られることは、裏を返せば各作品に投入される設計と加工の密度が維持されていることを意味する。Type ナンバーがどこまで進むのか——それは彼ら自身のペースでしか決まらない。
Photo by Anton Savinov on Unsplash
まとめ
Auto Fabrica の Type シリーズは、カフェレーサーという既存の文法を出発点にしながら、そこから装飾と余剰を徹底的に削り、残った骨格と面だけで車両を成立させるという試みだ。Bujar と Gaz の Avdiaj兄弟がプロダクトデザインの教育から持ち込んだ方法論は、従来の「速く走るためのカスタム」とも「目立つためのカスタム」とも異なる座標軸を提示した。アルミの手叩き成形、フレームとの一体設計、電装の徹底した隠蔽といった技術的アプローチは、派手さこそないが再現性のある思考法であり、自分のビルドに取り入れる価値がある。量産車のボルトオンカスタムが主流の時代にあって、一枚のアルミ板から面を起こすという行為が持つ意味は、むしろ増している。
より深くこの領域を知りたい方には、世界のカスタムバイクを網羅的に収録した書籍が参考になる。Chris Hunter 編著『The Ride: New Custom Motorcycles and Their Builders』(Gestalten刊)はAuto Fabricaを含む現代ビルダーの仕事を高品質な写真で紹介しており、続編にあたる『Bike EXIF: The Ride – 2nd Gear』(同じくGestalten刊)ではさらに幅広いビルダーが取り上げられている。また、カフェレーサー文化の歴史的背景を押さえるなら Mike Seate 著『Café Racers: Speed, Style, and Ton-Up Culture』(Motorbooks刊)が手堅い一冊だ。
📺 関連映像: cafe racer custom build aluminium hand forming — YouTube で検索
本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。
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