雨の峠で荷物を濡らさないために──タナックス・ヘンリービギンズ・クリーガ、防水ツーリングバッグの選び方
タナックス、ヘンリービギンズ、クリーガの防水ツーリングバッグを容量・防水構造・取付方式から比較。選び方の核心を解説する。
「防水」の定義が曖昧なまま買うと、峠で後悔する
ツーリングバッグに「防水」と冠された製品は多い。だが、その防水が何を指しているのかを正確に把握して購入している人は少ないのではないか。ファスナー部にフラップを被せただけのものを「防水仕様」と呼ぶメーカーもあれば、生地そのものをターポリンやPVC溶着で仕上げ、開口部をロールトップクロージャーにして初めて「防水」と名乗る製品もある。両者の差は、小雨の30分では出ない。差が出るのは、山間部の峠で叩きつけるような雨に2時間晒されたとき、あるいは高速道路で巻き上げられた水飛沫が延々とバッグの底面を打ち続けるような状況だ。
本稿では、日本国内で流通量が多くパーツショップや用品店で実物を確認しやすいタナックス(TANAX / MOTOFIZZ)、ヘンリービギンズ(HENRY BEGINS / デイトナ)、そして英国発のクリーガ(Kriega)を軸に、防水構造と容量設計の思想を比較していく。価格帯も用途も異なる三者だが、それぞれが「バイクの荷物をどう守るか」という問いに対して異なる回答を出している。
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タナックス モトフィズ──日本のツーリング文化を支えてきた定番の構造
タナックスのモトフィズシリーズは、国内ツーリングバッグ市場において事実上の標準的存在である。とりわけ「フィールドシートバッグ MFK-101」と「キャンピングシートバッグ2 MFK-102」は、用品店の棚で見かけない日はないほど定着している。
MFK-101は容量39〜59リットルの可変式で、サイドのファスナーを開くことで拡張する。MFK-102はさらに大きく、59〜75リットルまで広がる。この可変機構がタナックスの設計思想の核で、「行きは小さく、帰りは土産物を入れて大きく」という日本の日帰り〜1泊ツーリングの実態に合わせている。固定方式は4本のベルトをシート後部やグラブバーに通す汎用アタッチメント方式で、車種専用ステーを必要としない。ネイキッドからフルカウルのスポーツツアラーまで、ほぼ車種を問わず装着できる点が普及の大きな要因だ。
防水性について言えば、モトフィズの標準モデルは「付属レインカバーで対応する」という設計が基本である。バッグ本体の生地はポリエステルやナイロンの撥水加工で、ファスナーは止水ファスナーではなくフラップ付きの通常タイプが多い。つまり、バッグ単体で豪雨に耐えるという構造ではなく、レインカバーを被せて初めて防水機能が完結する二重防御の考え方だ。この方式の利点は、晴天時には通気性が確保されること、そしてカバーを外した状態では各ポケットへのアクセスが容易なことにある。反面、突然の雨でカバーを被せる手間が生じるし、高速走行中にカバーが風で煽られるリスクもゼロではない。
価格帯はMFK-101が実売で1万5千円前後、MFK-102が2万円前後(2026年現在の国内主要通販サイトでの概算)とされ、容量に対するコストパフォーマンスでは三者の中で最も手が届きやすい。
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ヘンリービギンズ──デイトナが仕掛ける「素材で防水する」アプローチ
ヘンリービギンズはデイトナのバイク用品ブランドで、アパレルからバッグ、レインウェアまで幅広く展開している。ツーリングバッグにおけるヘンリービギンズの特徴は、防水モデルにおいてバッグ本体の素材と縫製で水を止めるという思想が明確な点だ。
代表的なモデルである「DH-751 防水シートバッグ」は、ターポリン素材を採用し、開口部をロールトップクロージャーで閉じる構造になっている。ターポリンとはポリエステル織物の両面にPVC(ポリ塩化ビニル)をコーティングした素材で、トラックの幌や業務用防水シートに使われるものと基本的に同じ系統の材料だ。縫製ではなく高周波溶着や熱圧着で接合することで、針穴からの浸水経路を排除できる。ロールトップクロージャーは開口部を3回以上巻き込んでバックルで留める方式で、ドライバッグやカヤック用防水バッグで長く使われてきた技術である。
この構造の利点は明快で、レインカバーが不要になる。バッグそのものが防水容器なので、雨が降り始めても何もしなくてよい。走行中に突然の豪雨に見舞われても、バッグの中身は基本的に濡れない。ただし、ロールトップ方式は開口部が一箇所に限定されるため、走行中に中の荷物をさっと取り出すといった使い方には向かない。タナックスのモトフィズシリーズが複数のポケットやサイドアクセスファスナーでアクセス性を重視しているのとは対照的な設計判断である。
容量は20リットル前後のものから大型まで展開があるが、ロールトップ構造の特性上、容量の可変幅はタナックスほど大きくない。荷物が少ないときは巻き込み回数を増やして上部を小さくできるが、拡張方向の自由度は限られる。価格帯は防水モデルで1万円台前半から2万円台が中心で、タナックスと大きく変わらない。
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クリーガ──英国発、モジュラー思想という第三の回答
クリーガ(Kriega)は英国バーミンガム近郊に拠点を置くブランドで、モーターサイクル専用のラゲッジシステムを設計・製造している。日本国内ではダートフリークなどが正規代理店として取り扱っており、アドベンチャー系やスポーツ系のライダーを中心に支持を集めている。
クリーガの設計思想を端的に表すのが「USドライパック」シリーズだ。US-5(5リットル)、US-10(10リットル)、US-20(20リットル)、US-30(30リットル)といった単位パックを、専用のループシステムでシートやサブフレームに連結していく。一つの大きなバッグに全てを詰め込むのではなく、必要な容量のパックを必要な数だけ組み合わせるモジュラー方式である。日帰りならUS-20ひとつ、キャンプツーリングならUS-30を2個にUS-10を1個追加、といった柔軟な運用が可能になる。
防水構造はUS-20やUS-30においてロールトップクロージャーとウェルデッド(溶着)シームを採用しており、ヘンリービギンズのターポリンモデルと同様にバッグ単体で防水が完結する。素材は420デニールのリップストップナイロンにHypalon(ハイパロン、クロロスルホン化ポリエチレンゴム)パネルを要所に配したもので、耐摩耗性と耐候性が一般的なPVCコーティング素材より高いとされる。Hypalonはゴムボートや軍用機材のカバーにも使われる素材で、紫外線劣化に対する耐性が特徴だ。
クリーガの弱点は価格である。US-20で1万円台後半、US-30で2万円台半ばが国内での実売相場とされ、容量あたりの単価はタナックスやヘンリービギンズの2倍近くになる場合がある。さらにモジュラー方式であるため、キャンプツーリング級の容量を確保しようとすると複数パックの購入が必要で、総額は3万〜5万円に達することもある。ただし、この投資が「必要なときに必要な容量だけ持ち出せる」という運用の柔軟性で回収されると考えるか否かが、クリーガを選ぶかどうかの分水嶺になる。
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防水構造の技術的な差──ファスナー・シーム・素材の三要素
ツーリングバッグの防水性能を左右するのは、大きく分けて三つの要素だ。ファスナー(ジッパー)の構造、縫い目(シーム)の処理、そして生地素材そのものの防水性。この三要素のどこに力を入れるかで、各メーカーの性格が分かれる。
ファスナーについて言えば、YKK AquaGuardに代表される止水ファスナー(ウォータープルーフジッパー)は、エレメント(務歯)の表面にPUフィルムを被せて水の侵入経路を塞ぐ構造だ。一般的なコイルファスナーよりも単価が高く、スライダーの操作感もやや重くなるが、ファスナー部からの浸水を大幅に減らせる。ただし、完全な水没に耐えるわけではなく、あくまで「雨水がファスナー表面を流れ落ちる程度の水圧」に対する防御である。
縫い目の処理はさらに重要だ。針が生地を貫通した穴は、どれほど細い糸で縫っても微小な隙間が残る。アウトドア用品ではシームテープ(縫い目の裏側に熱圧着する防水テープ)を貼ることで対応するのが一般的だが、バイク用バッグの場合、走行振動と紫外線劣化でシームテープが剥がれやすいという問題がある。クリーガやヘンリービギンズの防水モデルが溶着(ウェルディング)を採用する理由はここにあり、そもそも針穴を作らないことで経年劣化のリスクを構造的に排除している。
素材面では、ナイロンやポリエステルの基布にPUコーティングを施したもの(一般的な撥水バッグ)、PVCをラミネートしたターポリン、そしてHypalonのような合成ゴムシートと、選択肢は段階的に「重く高価だが確実」な方向へ進む。バイク用バッグの場合、軽さは積載時の重心に影響し、マシンの挙動にも関わるため、ただ頑丈な素材を使えばよいというものでもない。タナックスがレインカバー方式を維持する背景には、バッグ本体を軽量に保ちたいという判断もあると考えられる。
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容量と用途の見極め──何泊するかより「何を持つか」
容量選びにおいてありがちな失敗は、「○泊だから○リットル」という公式に頼りすぎることだ。実際には、宿泊日数よりも「何を持っていくか」と「現地で何を買って帰るか」のほうが容量を左右する。たとえば、キャンプツーリングでテントとシュラフを積むなら40リットル以上は欲しいが、宿泊施設を使うなら2泊でも25リットルで足りることがある。逆に、日帰りでも道の駅で地酒を2本買えば、帰路のバッグ容量が一気に逼迫する。
目安としては、日帰りでレインウェアと工具と飲料を積む程度なら10〜20リットル。1泊で着替えを1セット持つなら20〜30リットル。キャンプ装備込みなら40リットル以上。ただし、これはあくまで荷物をコンパクトにまとめられる前提であり、パッキング技術によって必要容量は大きく変わる。
取り付け位置と車体形状の相性も見落とせない。シートバッグはシート後方の面積に制約されるため、シングルシートカウルのスポーツバイクでは大容量モデルが物理的に載らないことがある。テールカウルが尖ったSSに60リットル超のバッグを無理に載せると、荷重バランスが崩れてリアサスの挙動が不安定になるリスクもある。クリーガのモジュラー方式は、こうした車体形状への適応力が高い。US-20を一つだけ載せれば、SSでも重心を大きく乱さずに最低限の荷物を積める。一方、タナックスのMFK-102クラスの大容量バッグは、アドベンチャーバイクやネイキッドなど、シート後方に広いフラット面を持つ車種との相性が良い。
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まとめ──三者三様の正解がある
タナックスは「容量可変とアクセス性」、ヘンリービギンズは「素材レベルでの防水完結」、クリーガは「モジュラーによる柔軟性と耐久素材」。それぞれが異なる問いに答えている。どれが最良かという問いは成立しない。自分のツーリングスタイル──日帰り主体か連泊か、晴天を選んで走るか雨天も厭わないか、積載量は固定的か変動するか──を棚卸しすることが、バッグ選びの出発点になる。
ひとつ確かなことがある。「防水」という言葉の中身を確認せずに買ったバッグは、いつか峠の雨で中身を濡らす。レインカバー方式なのか、素材そのもので防水しているのか、ファスナーは止水か通常か。この三点を購入前に確認するだけで、雨天走行時のストレスは大幅に減る。
ツーリングバッグの選び方や積載テクニックをもう少し体系的に知りたい向きには、クレタパブリッシングの『ツーリングのすべて』(タンデムスタイル編集部)が積載の基本から応用まで網羅している。また、『BikeJIN』2024年7月号ではツーリングギアの特集が組まれており、各メーカーの製品を横断的に比較した記事が参考になる。
本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。
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